斎藤明美「高峰秀子の捨てられない荷物」332冊目

たまに買う「クロワッサン」に、この人はほぼ同じ内容のエッセイを連載してます。単なる転載かなと思うくらい同じエピソードが多いけど、タイトルは別らしい。
文中いつも謙遜してみせる割に冷静な文章を書く人だけど、ほかの内容の本はほとんど書いてないみたいだ。筆者はたぶん、高峰秀子という類まれな英雄と、その類まれな夫に立ち会い、目撃し、伝えるのが自分の人生のミッションと決めて迷わないんだろう。

 

天才女優の桃太郎と、イヌ・サル・キジの全役割を担う夫という役割分担が、1冊通して読んだら見えてきた。日本の男性で、これほど”ナイト”に徹することができる人はあまり見たことがないのですが、結局のところその懐の深さが誰よりも偉大な気がします。英雄の痛みを想像できる純粋さがある人なんだろうなと思います。

 

唯一わからなかったのは、大女優がいつ出汁の取り方を覚えたか。「デブ」と呼ばれる義母が、昔はよく台所に立ったというけど、それはまだ子役の頃だ。結婚してから料理を覚えるしかなかったんじゃないのかな。

 

英雄は、力を発揮するなかで周囲を巻き込んでズタズタにしてしまうことが多い、と思う。すべてを飲み込んで耐えられる高峰秀子って人の強さに圧倒されますが、逆にそれが周囲を狂わせたのかもしれない・・・そういう後ろめたさのようなものを、彼女は養母や兄に持ち続けたのでしょう。
平凡でいることって、本当に幸せだな。としみじみ思います。