米澤穂信「秋期限定栗きんとん事件」1118‐1119冊目

これもAudible。男性と女性のナレーター2人いれば完全に聴けます。このところ体力が落ちていて、病気の猫とずっと添い寝ばかりしてるので、耳だけでできる読書は楽でいいです。

今回もなかなかハードなアクティビティが行われます。放火という犯罪が重いし、極悪とまではいえない普通の人たちのちょっとした悪意や乱暴な行動に対する復讐が重い。誰かこのお嬢ちゃんに、人を赦すということを教えてやってくれ。(このまま復讐を続けてると、たぶん早死にする)

結末からの二人の会話がとても面白かったです。同じ穴の狐と狸。

 

 

米澤穂信「夏期限定トロピカルパフェ事件」1117冊目

これもAudible。小悪魔・小佐内と謎解き名人・小鳩のふたりが、夏休みにカフェ巡りをして絶品スイーツを食べ歩くという、きわめて小市民的な行動が、やがてすべて小佐内のある計画の実践に向かって収束していくというストーリー。

この二人に熱血漢・堂島も加えたキャラクターが魅力的。TVドラマ化するなら、小佐内を演じるのはアイドルグループの一番小柄な妹キャラの子とか…でもどこか暗くておとなしそうに見える人がいいので、デビュー間もない頃の戸田恵梨香とかいいかも。今なら河合優美が演じればかなりどんなキャラクターにもはまるか…。小鳩は小柄で童顔な俳優、鈴鹿央士とか。

ストーリーのほうは、謎を解きながらズルズルと企みに入り込んでいいったり、キツネとタヌキが、悪と小市民が引き起こすトラブルの解決に暗躍したりするのがなかなか刺激的で面白い。スイーツも美味しそう…。(でもなぜ店の名前が「ジェフベック」?)

メインの二人はいつも頭の中が忙しい。人の言動をいちいち分析したり秘かに調査研究とかしてる。これで成績が悪いはずはないんだけど、日々のそういった活動に忙しくて勉強には身が入らないのかな。

そんなあり方を理解し合えるのはこの二人どうししかいないけど、愛とか恋とか、欲しくなるのもこの年代の少年少女だ。そうして、この、大人のように考えたりしゃべったりする二人の縁は切れずに続いていくのである‥‥。

 

米澤穂信「春期限定いちごタルト事件」1116冊目

これもAudibleで。意外に面白かった。最初のほうは、小市民に化けたビッチな小娘が小市民然としていたので「ふつう」な感じだったけど、馬脚を露していく結末にかけて盛り上がってしまいました。

この人の作品は「黒牢城」しか読んだことがなくて、かつ、感想を書いてないということは読了すらできていなかったのだと思います。よほど硬質な文体だったり歴史上の実在の人物がたくさん出てきて名前が覚えられなかったのか。。。(かなり歴史苦手なので)

しかしこの本はタイトルからしてとっつきやすいし(それにしては腹黒いけど)、人が死なないけど謎解きの妙味もあって、さっそく次も読もう(聴こう)と思ってしまいますね。小柄で小動物的だけど決してカワイく描かれていないヒロイン小山内の造形がちょっとゾッとするし、彼女を守るナイトに徹するわけでもなくちょっと怖れているパートナーの小鳩少年もヒーロー感がなくて面白い。

次は巴里マカロンですね!

 

逢坂 冬馬「同志少女よ、敵を撃て」1115冊目

Audibleで聴きました。これはAudibleに合います。適度に一人語りが多いラジオドラマだからか、楽しんでずっと聴けました。効果音なしの語りだけなのに、戦争の緊迫感がちゃんと頭の中に広がる。

ロシアの幼い少女が家族を撃たれ、復讐に燃える。葛藤を続けながらスナイパーとしての地位を確立し、それでも常に葛藤しながら生き延びて終戦を迎える。

ノンフィクションであるアレクシェービチ「戦争は女の顔をしていない」にかなりインスパイアされて書かれたものなんでしょうね。あの本はかなり重いと聞いていて、私はマンガ版だけ読んだのですが、絵であっても衝撃がかなりありました。この本は耳から聞いたこともあり、衝撃だけ割り引いてくれて、私にとっては受け留めやすい形になっていたと思います。

被害者としての痛みから、加害者としての痛み、つぐない。幼いときからの「自分」視点ですべて描いたから、そこがロシアであってもドイツであっても、読む人が共感できるんでしょうね。長い小説だけど、全然飽きずに楽しめました。1章の長さが均一じゃなくて、緩急がくっきりとあるのがよかったです。

 

井上先斗「バッドフレンド・ライク・ミー」1114冊目

デビュー作「イッツ・ダ・ボム」が面白かったので第二作をさっそく買って読んでみました。あっという間に読了。新刊をすぐ買うことはあまり多くないほうだけど、今日久しぶりに新宿東口の紀伊國屋書店本店に行ったら、パラダイスのような素晴らしい書店になっていてあまりに感激して、2冊も買ってしまいましたよ。一時期、似非科学本ばっかり積んでた時期があったような記憶があって、あえて素通りするようになってもう何年もたっていたけど、たまたま通りがかってよかったです。

こんどは”ホスト崩れ”の青年が、さらに落ちていくのか?という設定で始まります。ふつうの人に誰でもある見栄が増長していくのが彼の特徴かもしれません。大学を辞めたのは起業したからで…それがうまくいかなくなって知り合いのところで働いて…などというウソを次から次へと繰り出します。やればやるほど回収不能になっていくことや、自分で自分をおとしめている、ということには無自覚です。

しかしこの著者の描く主人公は、そこでぼんやりと絶望したりしません。再会した素敵な女性の愛ある励ましに押され、彼は自分が巻き込まれた大きな事件を観察し、分析し、謎に迫っていきます。このリアルで丁寧な謎解きのプロセスが、ちょっとヒヤヒヤするけど、読んでてとても気持ちいい。前作から期待したものがちゃんとありました。

ああ、まだまだ本が読みたい。今日買わなかったあの本も、この本も読みたい。目が乾いて痛いけど。これを読書の沼って呼ぶんですか…。

 

 

伊坂幸太郎「ペッパーズ・ゴースト」1113冊目

面白かった。400ページ近いのに、あっという間に読めました。

この人の作品のなかの「悪」は、十分ほんとうに悪いんだけど、あまり底恐ろしくなくて、最後までエンタメ気分で楽しめる。だからここまで人気があるんだろうな、きっと。…いやでも村上春樹みたいな純粋な悪を描き続けて世界的に人気の作家がいるか。多分、違うのは読んでる人がそれほど重く感じずに読める感覚なのかな。

映画「ブレット・トレイン」の印象はとても強かった。あれを日本で映画化してたら、見覚えのある、普通の日本人の代表のようなキャスティングで、面白くて身近な作品になっただろうけど、ハリウッドが大枚はたいてブラピやアーロン・テイラー・ジョンソンやマイケル・シャノンで作ったもんだから、インパクト最強のスラップスティックができあがりました。あれとの共通点がいろいろあるなと感じながら、この作品を読みました。まぬけな悪党、ミカンとレモンに対してロシアンブルとアメショー。無垢なようでいて悪辣な女性。改めて、伊坂作品をあれくらい拡大解釈して爆発させる映画も作れちゃうんだよな、そのアイデアってなかなかすごいな、と思います。

 

高野秀行「酒を主食とする人々」1112冊目

タイトルを見たとき、これは比喩的表現であって高野氏が自分自身や酒好きの気のおけない仲間たちのことを書いた本かしらと思いました。一瞬だけ。でも本当に、”酒を主食”というか副菜もほとんどなく、ある種のアルコール飲料をほとんど唯一の栄養源として、たくましく育って健康に暮らしている人たちが実在するようです。しかもエチオピアなんだ。私の好きなコーヒーの産地じゃないですか。(現地の人たちはコーヒー豆は輸出するので飲まないらしい)

このどろっとした飲み物。作り方は詳しく書かれていますが、原料となる植物がどういうものかまったく想像がつかないので結局何も頭に入りません。ただ、主食のその飲み物の形状はバナナジュースのようで、蒸留酒を想像すると、それとはまるで違っています。強いていえば「どぶろく」や「甘酒」のような。もっと広げると、最近あまり見ないけどカロリーメイトの缶入りの飲み物のほうにも似ています。そう考えると、そのアルコール飲料が「総合栄養食(アルコール入り)」であるとみなすのも無理ではないかもしれません。マドレーヌとかマカロンとか、焼き菓子を買ってくると個包装にアルコール粉末の小袋が入っていて、それで品質保持をしていることがあります。冷蔵することなく保存でき、持ち運びも簡単、水で割って飲むだけというそれが、アルコールによって保存性を高めた総合栄養食だと言い切ってもいい気がしてきました。

ぜひともそれをそのまま持ち帰って、栄養分析をしてみてほしいです。なんなら原材料の植物を輸入して、同じ製法でアルコール飲料を作ったあとでアルコールだけ飛ばして、缶詰にしてカロリーメイトの隣で売ってほしい。というかただ飲んでみたい。私はおいしいものを食べるのが好きだけど、自分で調理したくないこともあるので、家に何本か買い置きしていつでも飲めるようにしたい。…でも生まれ育ちが違うので、日本に住む私には総合栄養食として消化吸収されないかもしれないな…。

それにしても今回も面白かった。人間の集団って、深く細かく観察すると、たぶんどんな人たちでも面白いんじゃないだろうか。はるか彼方の不思議な慣習で暮らす人たちが、やがてお隣さんのように思えてくるこの人の本がほんとに好きです。