さすが一万円選書。スポーツものといっても、枯れた味わいも感じさせる作品です。舞台は大学駅伝なんだけど、トーナメントで勝てなかったチームからタイムで早い順にピックアップして構成した、いわば”敗者復活枠”。メンバーはみんな大学生なわけですが、なんとも深くて複雑な心理や人間関係があって、とても若者たちの物語とは思えないくらいです。
選抜メンバーの個性がそれぞれかなりユニークで(※全員を均等に紹介することはなく、キャプテンはその友人、強烈な個人主義のエース、など数名に絞っています)、私のような記憶力のにぶい者でも、混同することはありません。これはありがたい。がんばらなくても楽しんで読めます。
…人間ってそんなにみんな大きな特徴があるわけじゃない、という見方もあると思うけど、家族はもちろん、クラスメイトや同僚も、最初はたとえば「メガネをかけてていつも紺のネクタイをしてる、A課のxさんと似てる」くらいの認識だったのが、長く一緒にいるうちに、「なんでxさんと似てると思ったんだろう?」って不思議に思えてくることがあります。よくよく観察するとみんな全然違う。そこを丁寧に拾い上げて、人物像を描いている作品って好きです。(区別をはっきりさせるために、わざと特徴を誇張したものは苦手だけど)
一度も失敗したことがない人でも、スポーツは肉体を使うものなので、いつかは何らかの故障が生じることもあります。初めて本格的な痛みを感じたとき、人は自分の至らなさに初めて気づいて、他者への共感を持ち始めるのかもしれません。心の動きの描き方もていねいで、納得のいく結末までどんどん読ませます。
力のある作家さんだなぁ。スポーツものって全然読まないけど、以前、警察小説の「ラスト・コード」を読んだときも”手練れ”とか書いてますね、私。刑事ドラマもよく見てるので、おそらくこの人の作品にはすでに何度も触れてるんじゃないかな…。
