2022-01-01から1年間の記事一覧

古川安「津田梅子 科学への道、大学の夢」804冊目

脚注や参考文献だけで全体に1/5くらいはありそうな、学術書として発表されたけれど、伝記として読むのも正しい本です。 重要なポイントは、今までの津田梅子の伝記は、梅子の側の人間が彼女を中心として調査したものだったのに対し、この本は科学史を専門…

久生十蘭「久生十蘭短篇集」803冊目

どこで見たのか忘れたけど、久生十蘭という作家が1955年にこの本に含まれる短編「母子像」(の英訳)でニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの「世界短編コンテスト」の一位を取ったというので借りてみた。読み始めてみると、海外を意識したような明治時代…

藤本シゲユキ「幸福のための人間のレベル論」802冊目

思えば私にも、どうすれば男性に好かれるか?どうすれば素晴らしいパートナーを見つけて幸せになれるか?と考えて悩んで、相性占いに凝ったりそういう指南書を読んだりした時期があった。不幸から抜け出せない親のことで悩んで、とことん付き合ってどんどん…

丸山健太郎「珈琲完全バイブル」801冊目

コーヒーは私のライフワークの一つなので、良さそうな本を見つけたら片っ端から読みます。 この本は、生まれて初めてコーヒーに本気で興味を持った人にとっては「完全バイブル」だと思うけど、私はもう変な偏りとか歪みとかを持ってしまった悪いマニアなので…

山口雅也「落語 魅捨理全集 坊主の愉しみ」800冊目

久々に山口雅也作品を読んでみました。江戸を舞台にした時代(倒錯)ものミステリーです。 ずっと読み続けてるわけじゃないので、小ネタにわからないものが多くて、笑えたり笑えなかったりですが、楽しい短編集でした。それにしてもこの人の作品は小ネタが多…

山崎俊輔「普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門」799冊目

これはいい本だった。別のFIRE関連の本を読もうとしてて、たまたま見つけたらAmazonプライム会員は無料でKindle版が読めるというので、さっそく読んでみました。 Fireというのは、Financial Independence, Retire Earlyの頭文字だそうです。名詞と動詞がくっ…

原田マハ「ユニコーン」798冊目

美しい本です。赤が基調の、若い貴婦人とユニコーンをあしらった一式のタペストリーと、初期のフェミニストと言われるジョルジュ・サンド。史実をベースに原田マハが創作した物語と、ジョルジュ・サンド自身が残した文章で構成されています。 ジョルジュ・サ…

竹宮惠子「少年の名はジルベール」797冊目

これが竹宮惠子サイドの物語。 先に萩尾望都の「一度きりの大泉の話」を読んで、多分竹宮惠子も辛かったんだろうなと思って、読んでみました。 みんな懸命に描き続けてきたんだなぁ。と、しんみりと感じ入るしかないですね。追いつめられることが続くとおか…

ジャナ・デリオン「生きるか死ぬかの町長選挙」796冊目

タイトルが気になって読んでみることにしました。原題は「Swamp Sniper」ですって。舞台はアメリカの沼地の小さな町なのでswamp、そこになぜかCIAのスパイがやってきたのでsniperか。日本の題名のほうが引きが強いし、最近の日本の”ちょっと目先を変えたエン…

武田砂鉄「偉い人ほどすぐ逃げる」795冊目

武田砂鉄は、テレビで話しているのを見て、そのきっぱりとした弁舌の一貫性が印象的で著書を読んでみたいと思いました。 この本でも立場は一貫しているし、主張にはぜんぶ納得できる。でも読んでてだんだん暗澹たる気持ちになってくるのは…この人のせいじゃ…

佐藤究「QJKJQ」794冊目

「テスカトリポカ」がとても面白く、血を見る場面が多いのにも関わらず私でも楽しめたので、別の作品も読んでみた。両方ともミステリー小説と呼べる謎があり、ホラーのようでもあり。とにかく迫力があって、かつ丁寧な文章で、どんどん読んでしまいます。力…

萩尾望都「一度きりの大泉の話」793冊目

2021年のお正月に放送された「100分de萩尾望都」を見て以来、彼女の作品を片っ端から読んで(あるいは読み直して)、その流れで気になっていたこの本を、今日やっと読みました。 萩尾望都の作品世界は、とても深い。情緒がきわめて繊細だと思う。一方で本人…

デービッド・アトキンソン「新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝」792冊目

インバウンドの観光関係の仕事をしようかと考えていたときに、この人の本を何冊も読んだんだけど、コロナでやる気がなくなって以来読んでない。でも今度は「自伝」とあるので読んでみることにしました。彼の生い立ちや日本語の習得、ソロモンブラザーズとゴ…

嶋中労・旦部幸博「ホーム・コーヒー・ロースティング」791冊目

素晴らしい本でした。 私も去年からキロ単位で生豆を仕入れて、家でコーヒーを焙煎して飲んでます。それ以来、焙煎した豆を買うことはありません。何より生豆は圧倒的に安い。今は時間の余裕がかなりあるので、割と本気の趣味としてコーヒー焙煎はとても楽し…

阿部浩一「きまじめでやさしい弱者のための「独立・起業」読本」790冊目

ビジネス書なんだけど、生きづらい人にとっての人生指針の本でもあります。「オンライン授業の教科書」とこの本、どっちが響くか。私はこっちの方がしっくりきました。 「人生はお花畑ではなく荒地である」という前提とか。この辺私の考えと同じだな。”幸せ”…

渋谷文武「オンライン講座の教科書」789冊目

思ったのと違った…ZOOMやるときにはどういう設定がいいとか、講義の構成とか、そういう実務の話かと思ったらオンライン、ビジネスの集客の仕方のほうだった。どうも見覚えがある。ネットや書籍のあちこちでそっくりなコンテンツをここ3年くらいの間にかなり…

上間陽子「海をあげる」788冊目

うん、私が読みたかったのはこういう本だ。「500ヘルツのクジラたち」じゃなくて。ただ、読みながら自分がこの本を沖縄に対する加害者としての本土の人間として読むべきなのか、誰にも話したことのない数々の傷を負った同じ被害者の女性として読むべきなのか…

アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件 上・下」786~787冊目

満足。お腹いっぱい。アガサ・クリスティを読み始めた頃みたいな気分。 「本格ミステリ」ってどういうものなのかよくわからないけど、トリックだけが完璧で動機に全然共感できない作品ほど、「本格ミステリ」って言葉にこだわってる気がする。クリスティの作…

恩田陸「薔薇のなかの蛇」785冊目

長年少しずつ書き溜めてきたものが、まとまって本になった形のようです。この作家の作品は数冊しか読んでないけど、初期のちょっとまがまがしくて美しい、名作少女マンガみたいな世界、という感じがします。 けっこう厚みがあるけど、スルスルと楽しく一気に…

栗原康「サボる哲学~労働の未来から逃散せよ」784冊目

ちょうど半隠居したところなので、この分野の本には興味があったんだけど、共感するのが難しかったな…。ラッダイド運動もいいしGAFAMを攻撃するのもいいけど、誰かが開発して普及させた機械やソフトウェアがあるからPCでテキスト打って本が出せるんだし・・…

「町山智浩・春日太一の日本映画談義~戦争・パニック映画編」783冊目

戦争・パニック映画編というより、戦争映画と三船敏郎という2つのトピックについて深く語り合った本だった。 戦争映画とホラー映画は長い間、私の苦手分野だったけど、ここ数年は一切の禁忌なく何でも見るようになったので、この本で取り上げてる映画もけっ…

岩田徹「一万円選書」782冊目

ラッキーなことに、この「いわた書店」の「一万円選書」、当選して私自身のカルテを書いて、岩田店長に選んで送っていただいた本が、今手元にあります。なんとなく勿体なくて、ゆっくりゆっくり読んでいるので、まだ1冊しか読み終わってないけど、残りを読む…

佐藤究「テスカトリポカ」781冊目

面白かった。とても。 最終的な舞台は日本だけど、メキシコシティの下に埋められたアステカ遺跡とか古代神とかが出てくる(ほぼ)異国の物語だし、日本に渡ってきたその末裔の人々への共感ポイントは著者から読者へ何ひとつ示されてないのに、コシモや末永や…

金谷武洋「日本語が世界を平和にするこれだけの理由」780冊目

だいぶ前に届いてたのに、やっと1冊目を読みました。「一万円選書」。 この本はタイトルを見たとき日本礼賛のような気配を感じて、気のせいだといいなと思いながら読み始めましたが、読んでよかった。日本語教師になる勉強を始めて9か月、「国語」でならっ…

丸山俊一「14歳からの個人主義」779冊目

この人の本はけっこう読んでると思うけど、このブログでは2冊目か。 若い社会人向けに書かれた本もあれば、この本のように中学生向けもあるけど、どれも本気で、甘い言葉を使わずに幼い大人に向き合っています。哲学だったり資本主義、今回は「個人主義」に…

ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」778冊目

コロナ禍を予見したかのような過去の映画、たとえばコンテイジョンを、この時期に見ると臨場感あり過ぎてキツイかなぁと思いつつも、関心が強くなっててやっぱり見てしまう今日このごろ。これもまた、謎の感染症が世界を席巻する作品とどこかで聞いて読んで…

恩田陸「灰の劇場」777冊目

恩田陸は「蜜蜂と遠雷」で好きになって何冊か読んだ。これは「蜜蜂」後の毛色の違う新作ですね。 「蜜蜂」は音楽の天国のような物語で、この小説はその対極をいくような、何も手に入れなかった、あるいは喪失した人々の物語。というより、希望に燃える若い時…

町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」776冊目

なるほど。こういう物語なのね。私が「これもひとつのファンタジー」と呼ぶやつだ。細かい部分にリアリティがなくて、なんとなくもわっとした違和感を持ちながら読むんだけど、ふわふわとして不思議な高揚感がある。でも私は泣けないんだな。本物の感情が湧…

劉慈欣「円」775冊目

「三体」で一気に世界のベストセラー作家となった劉慈欣の短編集。ケン・リュウが編纂したアンソロジーで何作か読んだことがあるけど、これほどまとまった形は初めてです。 「月の光」と「円」はアンソロジーの中のひとつだったのに、よく覚えてる。今回も、…

森博嗣「歌の終わりは海」774冊目

ミステリーじゃないシリーズがあったのか…。何も知らずに読んでしまったら”解決編”がなかった。先日読んだ「冷たい密室と博士たち」は、冒頭に現場の見取り図が載ってるいわゆる”本格ミステリ”だったので、頭を働かせる覚悟で読んでしまって肩透かしになって…